抱樸(ほうぼく)について

個人や家族に任されすぎた役割を、
みんなで分担していける社会をつくる

数字でわかる抱樸

数字でわかる抱樸

私たちが向き合っている社会

社会に居場所がない。困っているのに、「助けて」と言える誰かがいない。生きることに疲れ果て、自分が困っていることにさえ気づけない。 ― 私たちの周りには、見えるところにも、そして見えないところにも、多くの孤立と困窮の現実があります。

私たちは、誰も取り残されない社会をつくりたい。誰もがありのままの状態で受け入れられる社会をつくりたい。「自己責任」と、家族の役割ばかりが大きくなっていく風潮の中で、何の心配もせずに「助けて」と言える社会をつくります。

33年の活動を通して、ホームレスの数は減少しました

炊き出しで 抱樸(ほうぼく)が出会った人数

1988年にスタートした炊き出しは、当初ホームレス状態にある方に限定してお弁当をお渡ししていました。不景気の煽りを受け、2004年には一時、一夜の炊き出しで457名の方にお弁当をお渡しすることも。

しかしその後の自立支援活動を通して、リーマンショックを経ても北九州市内ではホームレスの方の数が増えることはなく、その数は今も減少し続けています。

路上で生活する人が減っても、見えない貧困は増えています

相対的貧困率の現状

社会的孤立の状況(OECD諸国の比較)

所得が年間122万円未満の相対的貧困状態にある人々の割合を見ると、この20年間で上昇していることがわかります。

実に国民の6人に1人が生活に困窮しているという状況の中で、さらに深刻なのは日本の孤立率の高さです。
人間関係の豊かさを示す指標「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」の指数は149ヵ国中101位(2017年)。OECDの調査によれば、友人や同僚、その他グループの人と付き合いがないと答えた人の割合は15.3%にまで昇りました。
「ネットカフェ難民」という言葉に象徴されるような、見えづらくなった貧困。そして、本当に困ってしまったときに頼れる他者がいないという社会的な孤立。

自己責任論の蔓延や、家族にあまりに多くの役割を担わせ、生きづらい世の中をつくっていく社会の風潮は、こういったデータと決して無関係ではありません。

「そういえば、母ちゃんが出て行ったときかな」

かつて路上で生活し、今は自立されて当時の経験を語る活動をしている西原さんは、講演で子どもたちから「どうしてホームレスになったの?」と尋ねられ、しばらく考え込んだあと「母ちゃんが出て行ったときから、ホームレスが始まっていたのかもしれない」と答えました。

妻が家を出て行ったあと、息子と自分の親の世話を続けた西原さんは、息子がひとり立ちをし、親が亡くなって一人きりになると、何のため、誰のために働いていたのかがわからなくなってしまい、そのまま路上で生活することになりました。

この人のためにと思える他者がいるから働ける。自分に会いに家を訪れてくれる他者がいるから生活を整えられる。私たちにとって、一人ぼっちで生きていくのはとても難しいことなのではないでしょうか。

野宿危険要因

「ホームレス」と「ハウスレス」はちがう

「このために」と思える自分の役割がないように感じたり、「この人のために」という他者がいなかったりする。いくら経済的な支援を行っても、人との絆、社会とのつながりが切れてしまっているために、生活を立て直すことが再び困難になってしまう事例が多くありました。

だからこそ抱樸(ほうぼく)は、「ホームレス(社会的孤立)」と「ハウスレス(経済的困窮)」の問題を分けて考えています。ハウスレスの人には「この人には何が必要か?」を考え、ホームレスの人には、「この人には誰が必要か?」を考えます。

保証人を提供し、アパートへの入居が完了しても、私たちの活動は終わりではありません。社会との関係性をつくりつづけ、いつでも「助けて」と言える他者でありつづける。経済的困窮と社会的孤立に同時に取り組む支援の仕組みをつくっています。

NPO法人の創立から30年余が経過し、路上に見られた困窮の風景は今、社会全体に広がりました。貧困、格差、そして孤立はもはや常態化しています。もし、いざと言うときに頼れる人が誰も思い浮かばなかったら、あなたも「家のあるホームレス」かもしれません。私たちはそんな社会をどうしても変えたい。北九州から日本中に、誰も孤立しない社会を広げます。

私たちの理念と想い

Point1

生きることに意味がある

「生きる意味のないいのち」が公然と語られる時代。抱樸はこれと闘い、「生きることに意味がある」と言い切ります。共生社会は大切です。しかし、共に生きることができなくても、ひきこもっていても、「生きているという事実」に意味があります。世の中が「生きる意味」や「存在意義」、「生産性」を問うとき、その答えを見出せなくても、「今、生きていることに意味がある」と抱樸は宣言します。これこそが、私たちが最も大切にしている普遍的価値だからです。

Point2

家族にすべてを押し付けない

8050問題(80歳の親に50歳のひきこもり)に見られるように「家族」は限界を迎えています。自己責任や身内の責任だけでは対応不可能な現実が噴出しています。「家族」の役割を社会が分業できるか。これが抱樸のテーマでした。例えば、その最も象徴的な場面は「葬儀」。「葬儀」や「死後事務」を担う家族がいないことが大家の入居拒否理由となっています。抱樸の互助会が「葬儀」を担うことで入居拒否が無くなりました。出会いから看取りまで、それが抱樸の目指す家族機能の社会化です。

Point3

断らない

NPOの強みは「自由」。原則的に何でもできます。抱樸は、その強みを生かし、ひとりとの出会いから創造的に事業を興し、必要に応じて連携の仕組みを創ってきました。これがNPO抱樸の最大の特徴です。一方で、制度を利用しない分、専門性に課題があります。抱樸は、専門性を高めるために社会福祉法人を設立する準備をしています。社会福祉法人は、制度を基盤とするために対象者が限定されますが、「広く、自由」なNPO抱樸との連携により「断らない」という在り方を一緒に実現します。

Point4

生産とは

抱樸は、「生産」を「自己実現」と捉えます。生産を金や物を作り出すことに限定する現代の社会とは異なり、「その人がその人として、その人らしく生きること」が生産であり、生産性の高い社会とは、「その人に与えられている力や個性が十分に発揮される社会」だと考えるのです。誰にも与えられている「かけがえのない自己」を実現するために、抱樸の事業は存在しています。しかし、自己を見出すことも、実現することも「ひとり」ではできません。抱樸は、自己実現のために社会的孤立と闘い、出会いと伴走を担います。

理事長 奥田知志からのメッセージ

1988年12月、私達は路上に生きる人々を訪ね夜の町を歩き始めました。数名のボランティアがおにぎりを携え路上の人々を訪ねます。「何ができるのか」、「何をすべきなのか」、手探りの活動が始まりました。訪ね歩き、傍らに座りひたすら耳を傾けました。一言も漏らさないようにメモを取り続けました。なすべきことは、その中にありました。時には「来るな」と叱られることもありましたが、「その時」が来るのを信じて待ちました。

2000年、私達はNPO法人となりました。その日、「一日も早い解散を目指します」と宣言しました。こんな活動が必要ない社会を創ることを目標にしたのです。私達が掲げたミッション(使命)は、「ひとりの路上死も出さない」「ひとりでも多く、一日でも早く、路上からの脱出を」「ホームレスを生まない社会を創造する」でした。

孤立が広がる時代において「ひとりにしない」こと、「断らない」こと、そして「つながり続ける」ことが私達の基本姿勢となりました。制度の枠に縛られることなく「ひとりとの出会い」から必要な仕組みを作りました。そのような「制度に因らない活動」は、「人を属性で見ない」と言う在り方を生みました。そもそも「ホームレスと言う人」はいません。例えば山田さん、田中さんという名前のある個人との出会いからすべてが始まり、私達は「出会った責任」を考え続けました。活動は自立支援に留まらず、「出会いから看取りまで」、「人生そのものに伴走する」というスタイルとなりました。

活動開始から25年を経た2014年、私達は名称を「抱樸(ほうぼく)」としました。山から切り出された原木・荒木(樸)をそのまま抱き止めることを意味するこの名称は、「自己責任」など、「断る理由」が横行する日本社会に対する「対抗文化」を意味します。すでに、日本の貧困と格差は常態化しています。私達は、「解散できない」ことを悟り、「解散しない」ことを決意しました。

私達が目指すのは「抱樸する社会」です。「断る理由を断念した社会」です。路上生活者の支援から始まった活動は、困窮し傷ついた家族、泣くことさえできない子どもたち、さらに孤立する人々、仕事を失った人、生きづらさを抱える人々、罪を犯した人々、障害のある人、高齢の方々、住宅確保困難者支援に広がりました。現在実施している事業は27となりました。すべては「出会った責任」を果たすためでした。

私達が目指すのは「伴走型支援」です。従来の問題解決型の支援に加え、たとえ解決できなくても「つながり続ける」ことを大事にします。「伴走」が社会の前提となることで、私達は「助けて」と言うことが出来ます。抱樸が目指すのは「助けてと言える社会」です。

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特定非営利活動法人 抱樸
トクヒ)ホウボク

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